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星の血 (2024)

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「鉄」を切り口に、星(大地)・わたし・微生物という3者のつながり / 連なりに思いを寄せて制作したインスタレーション作品。

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わたしは大きく息を吸う。

肺の奥までたどり着いた酸素は、ヘモグロビンが抱える鉄原子と結合し、血液に乗って体組織へ運ばれる。
血液の赤さは、鉄原子と有機物が結びついたヘモグロビンの赤さ。
鉄を触った後、わたしの指先からは血の匂いがする。

かつて幾多の恒星が燃え尽きて崩壊に向かう最中、超高温下で核融合が繰り返され、種々の重い元素が生成された。鉄はそのうちのひとつ。それらは爆発とともに宇宙空間にばらまかれた。
この星が形を成していった初期、死んだ星の燃え滓が衝突し、融合してどろどろの液状だった頃、重い元素である鉄は星の中心部へゆっくりと沈みこんでいった。
あなたが今立っているその場所の地中深く、星の中心部で、鉄はずっと巡り続けている。

生物には、他の生物からエネルギーを得るものと、非生物からエネルギーを得るものがある。

鉄バクテリアと呼ばれる土壌微生物は、鉄からエネルギーを引き出し、副産物として茶褐色の沈殿物をつくる。

古代の人々はこの沈殿物を焼成し、ベンガラという赤茶の顔料として使用した。
土偶など祭祀に使う道具を彩色したり、墓の底や遺体など埋葬場所に撒いたりしたそうだ。
ひたちなか市の虎塚古墳には、1400年経った今でも驚くほど鮮やかな赤い壁画が現存している。
その赤色に、当時生きていた人々はどんな思念を込めたのだろう。

わたしは大きく息を吸い、芳醇な大気から体内へ酸素を取り込む。酸素はわたしが食べた有機物を分解し、エネルギーを生成する一助となる。細胞内の化学活動は連続して止むことなく、わたしは今こうして生きている。
 

※ ベンガラには鉱物由来のものとバクテリア由来のものがあり、バクテリア由来のものは電子顕微鏡で観察した際の形状から、”パイプ状ベンガラ”と呼ばれる。

分析の結果、虎塚古墳石室の壁画に使われたベンガラはバクテリア由来だと判明している。

(参考文献)稲田健一 『装飾古墳と海の交流 虎塚古墳・十五郎穴横穴墓群』新泉社, 2019, p39

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協力

ひたちなか市埋蔵文化財調査センター

みなとメディアミュージアム(MMM), 本作品はMMM2024 芸術祭 <置き配ではない - Not Unattended Delivery> の滞在制作作品として制作されました。

Special Thanks

Miki Sasaki (artistic director of MMM)

Kenichi Inada (Research Center for Buried Cultural Properties, Hitachinaka City)

Mirei Tanaka (Research Center for Buried Cultural Properties, Hitachinaka City)

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